限界と責任|ジム・スタジオが出来るまで⑪

トレーニング機材もない空間でパーソナルトレーニングを行う。私にとってはちょっとした挑戦でした。

今までやってきたこと、学んだことを頭の中でひっくり返し、『こうやったら?いやこうして・・・』と、トレーニングを創り上げていきました。

『何も持ってないなら工夫する、自分で作る。』

これはトレーニングだけでなく看板からホームページまで、すべてにおいて共通した私の行動指針のようになりました。

『ないから出来ない・ないからあきらめる。ではなく、どうやったら出来るようになるか考える。』

いつの間にか、”何か手がないかな?”が口癖になりました。

当初女性のお客様が大半だったのですが、トレーニングのご依頼が増えるにしたがって男性のお客様も増えていきました。

手持ちの道具で工夫しながら何とかやってきましたが、やはり男性のトレーニングとなるとちょっと負荷(重り)が足りない場面も出てきました。なので徐々に本当に必要な道具を選んで買い足していきました。

柔らかい雰囲気のスタジオに、ちょっとずつ不釣合いなトレーニング機材が置かれていきました。

春先だったでしょうか。ダイエット目標の女性がトレーニングを開始されました。とても頑張り屋さんな方で、お仕事で疲れていらっしゃるだろうに、一生懸命楽しそうにトレーニングに取り組んでらっしゃいました。

しかし・・・結果が出ない。

お食事も気をつけて、トレーニングも頑張ってらっしゃるのに、結果が出ない。申し訳ない気持ちになりました。

実際には他に原因があったのだと思いますが、その当時の私はこう思いました。

『もっとたくさんトレーニングしてもらえる環境を提供できたら・・・そうしたらこの方の思いに応えられるかもしれないのに。』

トレーニングのバリエーションも限られる、有酸素運動だって出来ない。申し訳なくて仕方がなくなりました。

残念ながら、希望通りの結果を出せないまま、そのお客様はトレーニングを終了されました。自分の限界と責任を改めて感じました。

申し訳ない気持ちで自分のスタジオを振り返りました。

柔らかい雰囲気のスタジオの中に、ダンベルやトレーニングベンチが置かれていました。悪戦苦闘した結果でした。でも・・・

『違う、何かが違う。』

ちぐはぐになっていくスタジオの雰囲気。それは自分の迷いや悩みを象徴しているようでした。

限界だ。ジムを作ろう!

お客様の思いに応えたい、自分の責任を果たしたい。そのためにはジムが必要だ。そう思った瞬間でした。

パーソナルトレーニングはじめました|ジム・スタジオが出来るまで⑩

『こんな小さいお店でパーソナルトレーニングなんてやっていても売れるわけない。』

そんな思い込みがあり、オープン当初はあまり積極的には”パーソナルトレーニング”をブログやHPに載せてはいませんでした。

業界の平均からすると、私のスタジオのパーソナルトレーニングの価格設定は決して高くありませんでした。それでも1時間6000円程度。

『こんな小さなお店で、そんな値段のものを、どこの誰だか分からないようなトレーナーから買う人はいないだろう。』

そんな風に考えていました。

ところが・・・オープンしてから半年が過ぎた頃、徐々に『パーソナルトレーニングやってますか?』そんなお問い合わせが増えてきました。

少しずつ少しずつ、パーソナルトレーニングの比率が高くなっていきました。

グループレッスンではなかなか集客に苦しみ、悩んでいた頃でした。単純に価格だけ比較すると、パーソナルトレーニングの方が単価が高いので、パーソナルトレーニングのお客様が増えるのと比例して売り上げも安定してきました。

『なんだ・・・はじめから自分の一番好きなもの・信じたもので勝負すればよかったんじゃないか。』

実際はパーソナルトレーニング自体がメディアで取り上げられ、世間での認知度が上がったことや、亀有では私しかパーソナルトレーニングスタジオをやっている人がいなかったのが大きな要因だったのでしょう。

それでも、自分の信じたもので勝負する事が、実は一番確実なんだと思いました。

さて色々なトレーニングのご依頼を頂きましたが、やはり多かったのがダイエット・筋力アップでした。

ところで最初のお店はと言うと・・・

そう、何もありません。トレーニング機材はほとんどありませんでした。

フィットネスクラブの中でトレーナー活動している頃なら・・・『まずこのマシンからやりましょうか。次にあっちでダンベルを使って・・・』なんて調子でセッションするわけですが、何もない・・・必死で知恵を絞りました。

元々はダンベル・バーベルといった『重たいもの』が大好きな私です(笑)何もない空間でいかにトレーニングを作り出すか、本当に悩みました。

ある日・・・

『次から次へとよく考えるよ・・・何のトレーニング道具もないのによくこれだけ人を苦しめられるなぁ(笑)』

わずかな機材で工夫しながらトレーニングを作る私に、感心するように、また半分あきれたようにお客様がおっしゃいました。

何もない場所でいかにトレーニングを作り上げるか、そんな風に悩んだ事はのちに財産となりました。

こうして順調にお客様は増えていったのですが、ある日私は悔しい思いを抱え、ある決断をすることになります。

プレゼント|ジム・スタジオが出来るまで⑨

最初のスタジオがオープンして少し経った頃でした。ある日、覚えのない荷物が届きました。

差出人を見ると、地元の友人の名前が。

『いつか自分のお店を作る。』よくそんな話をした相手でした。しかし、実際は足踏み状態。毎年同じことを言っていました。

こんな自分かっこ悪い・・・

新潟を離れパーソナルトレーナーになり、ついに自分のお店を作るところまで辿り着きました。

『ついに夢を叶えたね。遠くから応援してるよ。』

ちいさなメッセージカードが添えられていました。お店の住所を伝えたことはなかったので、ブログでチェックしてくれて・・・本当に嬉しかったです。

お店がオープンしてからは、少しほっとしたのもつかの間、毎日毎日不安しかなかったです。

銀行通帳の残高はどんどん減っていきました。

悔しさ、不安、疲労・・・

気付かないうちにストレスがたまり、気持ちが荒れていました。

不安や悔しさはいらだちに繋がり『頑張って!』と言われても、『頑張ってるよ、これ以上どう頑張ればいいんだよ!』そんな風に感じてしまう始末でした・・・

周りの成功を妬んだり、嫌な感情が自分を支配している事にさえ気付けませんでした。

逃げ道はありませんでしたから、毎日毎日手探りで頑張り続けました。気が付けば半年が過ぎ、一年が過ぎ・・・

『まだ潰れてない。まだ大丈夫みたいだ。』

少しだけホッとしました。

ある日・・・フィットネスクラブ時代お世話になった社員さんが転勤すると知りました。

『迷惑かけたし、何かあげようかな?』

そう思い、すぐ近くのショッピングモールへ。Tシャツか何か、ちょっとしたものを買いました。

『人に何かをプレゼントするって、いつ以来だろう・・・』

裕福ではないけど、不自由なく暮らしてきた日々。

それがお店を出してからは、毎日毎日が不安で不安で・・・お金の余裕と共に、いつしか心の余裕も失っていました。

誰かにプレゼントをする

誰かにプレゼントが出来る

ラッピングしてもらった包みを片手にショッピングモールを歩きながら、自然と人にプレゼントをしようと思えた事が本当に嬉しくなったのを今も覚えています。

おばあちゃん|ジム・スタジオが出来るまで⑧

最初の小さなお店がオープンしてしばらくした頃の事でした。

『なに?このカウンター!大丈夫なの?!』

そう言いながら、おばあちゃんがカウンターを揺すりました。

『うわ~!ちょ、ちょっと』

今でこそ簡単な店舗の内装まで出来るようになりましたが、最初の頃はカウンター一つ作るのも深夜までかかってました。

ようやく作ったカウンターをそのおばあちゃんは『んもう!こんなんで大丈夫なの?!』と言いながら手でガタガタさせてみせました。

その数日前・・・

『どう?元気にしてる??』

フィットネスクラブ時代お世話になったおばあちゃんから電話が。

『はい!何とかやってます。もうすぐ潰れるかもしれませんが・・・』

オープン当初は本当に不安で、よくそんな風に話してました。

『なぁに冗談言ってるわ。どの辺だったっけ?』

スタジオの場所を伝えると、数日後そのおばあちゃんが訪ねて来てくださいました。

『こんなところに(お店)出したんだ。ずいぶん迷ったじゃない!』

『あ、え?!ごめんなさい。』

『お客さんはいないの?!大丈夫?』

そして、カウンターを揺すり始めたんです。決して意地悪なわけではありません。下町の方らしい、ちょっと手荒な挨拶・冗談でした。

一週間後、またそのおばあちゃんはいらっしゃいました。今度は手に何かを持って。

『ほら。』

そう言って渡してくださった袋の中にはパンがたくさん。

『あたしゃパンは食べないから、おいしいかどうかわからないよ。』

なんて言いながら。

お元気な方ですが、年配の方が隣の駅とはいえわざわざ電車に乗って。そしてお店を探しながら歩いて・・・実際、結構大変だったと思います。

ちょっと手荒な挨拶も、心配してくれているからこそでした。

『もうちょっと近かったらねぇ・・・』

『〇〇さんにも言っておいたんだよ。』

『ちゃんと食べれてるのかい?』

一生懸命、私のお店と私のことを心配してくださってました。親心でしょうか。ちゃんとご飯食べていけてるのかしら?と心配してくださったようで、また次にいらした時もパンを片手に・・・

『いつもすみません。ありがとうございます。』

『そろそろお客さんが来るよ。あたしゃ人を呼ぶんだから。』

誰もいないお店に入ったら、自分の後からどんどんお客さんが入って来ることがよくあるそうです。

『そうなんですね。だといいんですが。』

『大丈夫だよ!』

実際にお客さんが来るかどうかより、その気持ちが本当に嬉しかったです。

『じゃあね。また来るね。』

そう言っておばあちゃんは帰っていきました。すると・・

『プルルル・・・プルルル・・・』

お店の電話。お客様からのお問い合わせでした。

『すみませ~ん。』

今度はお店の戸を開けて入ってきてくださった方が。

・・・ホントだ。

おばあちゃん、ありがとう。

汚れ|ジム・スタジオが出来るまで⑦

今でもこの一番初めのスタジオの頃から通ってくださっているお客様があります。

『最初のスタジオが一番良かった!』といまだに言われたりします。嬉しいやら申し訳ないやら・・・笑

オープンしたばかりの頃は本当にお客様が少なく、来る日も来る日もただひたすら時間だけがあるような日々でした。

それが少しずつ、ほんの少しずつ、お客様がいらしてくださるようになりました。

初めのころは『パーソナルトレーニングなんてまだまだその辺で売ってても買ってもらえないだろう。』そう思い、ヨガやピラティスのレッスンを中心にしていました。

レッスンが終わるとフロアを掃除します。物もたいして置いていない小さいスタジオですから、毎回全体を隅々まで。

まだお客様が少ない頃でしたから、掃除を終えたフロアモップはたいして汚れていませんでした。

大きなフィットネスクラブなら、一度に何十人・何百人もの人が利用しています。一日にすると1000人近くの人が出入りしたりします。当然、汚れます。ある程度の汚れは致し方ないところもあるでしょう。

『小さいスタジオなんだから、掃除も簡単。それならお客様のために、なるべくきれいにしよう。』

そう思い、毎日毎日・・・鏡はいつでも曇り一つないくらいに磨き上げていました。

徐々にお客様も増え、あるイベントレッスンの時でした。

今までで一番大勢の方がレッスンにいらしてくださいました。いつものレッスンより動きも激しい内容。

イベントを終え、いつものように掃除をしました。フロアモップにはいつもの倍くらいのホコリが。

『あぁ・・・よかった。』

なぜか自然とそんな気持ちがわいてきました。

いつも掃除を終えてフロアモップを眺めるたび・・・

『汚れてないなぁ・・・仕方ないよね、お客さんまだ少ないし。』

少し寂しく思っていたんです。それが、今日はこんなにホコリが。

『成長したなぁ・・・』

我が子の成長を見る親のような気持ちでした。ああ、たくさんの人に来てもらえたんだ。ちょっと成長したんだなぁ・・・と。

汚れているということを、こんなに良い意味に感じたのは初めてでした。

『汚れてくれてありがとう。汚してくれてありがとう。』

自然と湧き出た自分のそんな思いが、自分でも少し奇妙に感じました。